サンクトペテルブルクのパラドックス

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コインを投げよう!!

説明

サンクトペテルブルクのパラドックスは,獲得賞金の期待値が無限大になる素晴らしいゲームです.偏りのないコインを次のルールで投げます:

裏が出続ける限り何度でもコインを投げられるので,獲得賞金はいくらでも増える可能性があります.0以上の整数 $n$ について,$2^n$ 円もらえる確率は $\dfrac{1}{2^{n+1}}$ なので,1回の挑戦でもらえる金額の期待値は \[ \sum_{n=0}^\infty 2^n \cdot \frac{1}{2^{n+1}}=\sum_{n=0}^\infty \frac{1}{2}=\infty \] となります.この期待値だけを見るといくら払ってでも挑戦したいということになりますが,冷静に考えると確率 $\dfrac{1}{2}$ で1円しかもらえない結果に終わることに気付きます.分布に偏りがある場合に平均値が直感を裏切る極端な例だと考えられます(中央値は1円でしかない).

このプログラムでは,実際にこのゲームに手軽に挑戦することができます.「コインを1回投げる」ボタンを押すと1回投げた結果が表示されます.結果の○は裏を,×は表をあらわします.×が出るとそれで終了で,獲得金額が表示されます.○が出るとさらに投げられます.コインを1回ずつ投げるドキドキをしばらく楽しんでから,一気に複数回挑戦したときの統計を見てみてください.

平均獲得金額の増大度

「飽きるまで挑戦し続ける」と,回数を重ねるとゆっくりではありますがなんとなく平均獲得金額が増大していくように見えます.色々調べてみると William Feller という人が次の結果を示したようです:挑戦回数を $n$ とし,$i$ 回目の挑戦で獲得した金額を $X_i$ とすると,任意の $\epsilon>0$ について \[ \lim_{n\to \infty}P\left\{\left|\frac{\sum_{i=1}^n X_i}{n\log_2 n}-\frac{1}{2}\right|<\epsilon\right\}=1. \] つまり,平均獲得金額は $n\to \infty$ で発散するのに対し,平均獲得金額を $\log_2 n$ で割った値は $n\to \infty$ で $\dfrac{1}{2}$ に確率収束します.したがって,平均獲得金額は $n$ が大きくなれば概ね $\dfrac{\log_2 n}{2}$になると考えられます.

上記の確率の議論は難しいので,ここでは Hugo Steinhaus という人の考えにしたがって次のような「典型的な場合の計算」をしてみましょう.例えばコインを8回投げると,典型的には確率通りの割合の結果になって,1円が4回,2円が2回,4円が1回,8円が1回となるでしょう.一般化して,$n=2^N$ 回投げたとき,典型的な場合として1円が $2^{N-1}$ 回,2円が $2^{N-2}$回,……,$2^{N-2}$ 円が2回,$2^{N-1}$ 円が1回,$2^N$ 円が1回出たときを考えると,その平均獲得金額は \[ \left(\sum_{k=0}^{N-1} 2^k \cdot \frac{1}{2^{k+1}}\right)+2^N\cdot \frac{1}{2^N}=\frac{N}{2}+1 \] となります.つまり $n$ 回投げたときに $\dfrac{\log_2 n}{2}+1$ ということですが,$\log_2 n$ で割れば $\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{\log_2 n} \to \dfrac{1}{2}\ (n \to \infty)$ ですので,Feller の結果と合うことがわかります.もちろん,この計算は特定の場合の結果に過ぎませんが,大数の法則により実際の結果も $n$ が大きければこれに近づいていくことでしょう(注:だいぶ適当な結論.分布の平均値が無限大でも大数の法則でよいのかどうかは怪しいですが,「飽きるまで挑戦し続ける」のが1つのよい「証明」です).

参考文献

ソースコード